カルト映画

ヤコペッティの『世界残酷物語』は世界最高の”ヤラセ映画”ではないだろうか?

村の英雄を讃えるべく牛の頭を斧で一刀両断に切り落とす風習を持つとあるアジアの国、サラリーマンや背中に龍の刺青を入れたヤクザ者に性感マッサージを施す400万人の風俗女性がいる都市東京(笑)などなど、世界各地の奇妙な風習を集めたドキュメンタリー、の体をとったモンド映画の記念すべき第一作目。

監督は、ゴシップ誌とお色気ドキュメント出身の知る人ぞ知るイタリアの名監督ヤコペッティ。『食人族』等のモキュメンタリー作品はこのヤコペッティのモンド映画から生まれたわけで、カルト映画好きには無視できない映画作家(+作品)なのです。実際、もったいぶった演出なしに心地よいカットの連続で見せ場のみをテンポよく見せていくヤコペッティの手腕はお見事。

ここに収められている約40の挿話の少ない数(ことによるとほぼ全部笑)がヤラセだというのが現在では一般認識のようだけど、それはそれとして、欧米人の目から見た世界の奇習ってこんなイメージなんだろうなと、ツッコミ半分納得半分で楽しみながら見れる。60年代当時はここに描かれていることが本当かどうかを確かめる術が、その現地に暮らしている人間を除いては、ほぼなかったわけで、見世物小屋感覚で大勢の人がこの「モンド映画」に押しかけていたのも頷ける。

当時の情報網でキャッチした奇習やお祭りを、実際に撮影しようとイタリアから飛んで行ったら、飛行機で着くまでに祭りが終わっており、来てしまった以上は何か撮らなければということで、その場でもう一回祭りをやってもらったり笑、それが駄目なら、本来はない奇習をでっち上げたりしていたようで、そうした撮影の(大変な)裏側を知ると、ヤラセだとしてもまあ致し方ないよなと思えてくる。

ヤコペッティは、本作のしばらく後に撮ることになる『残酷大陸』が最高傑作だと僕は思っている。アフリカで捕えられ、奴隷船に乗せられた黒人が、アメリカへ辿り着き奴隷として売られるまでの過程を、カメラを持ち追いかけたドキュメンタリー形式の作品。何が凄いって、時代が一世紀以上も違うのに、これはドキュメンタリー映画です、顔をして作品を作っていること。カメラを持って奴隷船に乗り込むってそもそもどういうことよ、、笑。本気で脳がバグるレベルの怪作、なのにそこに映っていることは全て真実だと納得させられるだけの説得力があの映画にはある。

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タニムラ
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